ハタチたち by.Concent

Case 06

ヒトとモノを大事にする高円寺のカレー屋さん
高円寺カレーハウスコロンボ 猪俣郁子の「20年」

2016/01/06
東京都杉並区高円寺。この街で20年間愛され続けるカレー店「カレーハウスコロンボ」。ナマステママでおなじみの、猪俣郁子さんに高円寺での20年についてお話をお聞きしました。

振り返ったら20年経っていた

― コロンボを始める前はどんな仕事をされていたのですか?

それまではアパレルのお仕事をしていました。最初は下着の会社で、その次は婦人服の販売。いずれの業界でも「コーディネート」が得意でした。これは今の仕事にも共通する点があり、食材の特質を考えてメニューを作る。この組み合わせるという点がコーディネートするということと共通していますよね。

― そんなママが、カレー屋さんを始めたきっかけは?

前職のストアマネージャー(店長職)という立場上、毎月のノルマが大変だったこともあり……。ファッションのお仕事も好きでしたが、料理の世界が好きだというのが根底にあったので、いつか食に関わるお店を持ちたいと思っていました。
それで上司に想いを伝えて退職し今に至ります。自分でカレー屋さんを開く前は半年間ほど他のカレー屋さんで勉強をしていました。

― なぜ高円寺にお店を出そうと思ったのですか?

高円寺に決めていたわけではありませんが、いろんな物件を探しても、なかなかピンと来なくて。でも「ここなら出来そうかなぁ」というインスピレーションが脳裏に走り、それだけでこの街に決めたんです。当時、高円寺には誰一人として知り合いがいなくて、右も左も分らない状況でした。でも「私はここで頑張るんだ」と自分自身に言い聞かせてやっていました。とにかく頼れる知人も友人もいなくて、自分自身だけが頼りだったので。でも今思い起こせば、かえってそれで良かったような気がします。

― お店をオープンした時期に一番苦労したことはなんでしょう

とにかく当時は高円寺のことはまるっきり知らなかったので、お客様に道を聞かれても返答に困ってしまって(笑)でもお客様は「お店の人は何でも知っている」という気持ちがあって聞いて下さるのでしょうから、それに応えるためにもあちこち歩き回りました。休みの時は独りで歩いて、迷ってお店に帰れなくなってしまった時もありました(笑)土地勘がなかったことが一番大変でしたね。

― オープン当時は20年間続くと想像していましたか?

いいえ、全くそういうことは考えず、ただただ「カレー」という媒体を通して社会参加をしていけたらよいという思いでやってきました。何年目標とか、数値設定は一切作らなかったですね。自分の情熱が続くうちはやり続けたいなと思っていますし、ふと振り返ったら20年経っていた、という感じですね。

― 今では常連さんがたくさんですよね

今は夜の11時半までの営業ですが、オープン当時は深夜の2時までやっていました。このお店のある商店街は駅から直通なので、24時間開けていてもいいくらいに人がたくさん通ります。そんなこともあって深夜まで営業していましたね。いつもお店の前を通る人が会社の同僚やプライベートのお友達を連れて来て下さるようになり、段々と輪が広がってきましたね。

― この20年、特に印象に残っている出来事はありますか?

昔は店内の飾りが全くなかったので、お店の中で私がカレーを仕込んでいる姿やお掃除している姿が丸見えだったようなんです(笑)そんな様子を70代くらいの年配のおじいさんがいつも見守っていて下さり、若かりし当時の私に娘さんを重ねていたようで「あなたはいつも一所懸命に頑張っているね」と、ケーキをよく差し入れしに来て下さっていました。地元の薬屋さんだったようで、荒れた私の指を目にしては、絆創膏やお薬を塗って下さって。本当に優しくして下さいました。

20年間営業してきて、お皿を1枚も割ったことがないの!

― そういえば、ママさんはよくお客さんに声をかけていますよね

実はこのお店を出す時に、自動券売機かレジにするかで迷ったんです。自動券売機だと計算を間違うこともなく、煩わしさもありませんが、どうしても人間関係は薄れる気がして。だから、お客様に声をかけられるように、あえてレジを選びました。「はじめてご来店して下さったんですか?」「今日は冷えますね…」など、他愛のない言葉ですけれども。自然にそんな感じで人間関係を積み重ねて来ましたね。

― たしかに、初めてコロンボさんにカレーを食べに来た時、それはすごく感じました。お客さんを大切にされているなって。

それはもう当たり前よ〜(笑)だって、みんな同じお客様ですもの。事務的で無機質な雰囲気にはしたくないし、温もりがあった方がいいじゃない。ましてや高円寺だし、カッコつけなくていいと思うんです。ハートtoハートで。その方がお客さんはずっと喜ぶと思の。

― 店内の様子を見ると、お客様だけでなく、物もとても大切にされているように見えるのですが……

そうですね……。私は物持ちがよくてね。これはね、カレーをかき混ぜるしゃもじなんだけど、すごいでしょう。ほら、欠けてるの。

― わ、見事に欠けてる(笑)

でも欠けたからといって捨てられなくて。私の歴史だから捨てられないの。
たとえば、雑巾1つ取ってもそうなんです。汚い所をキレイにしてくれるのがこの子のお仕事でしょう。バイトの子がびっくりするくらい、私は永く使うの。ぼろぼろになって捨てる時も「どうもありがとうね、ご苦労様ね」って言って。お仕事を全うしてくれてありがとうって。少々変人扱いされますけれどもね(笑)
それにね、私、この20年間でお皿を1枚も割ったことがないの!これ、ちょっと自慢です!(笑)

知れば知るほど、難しくなるんだって

― 20年間やってきたからこそ見えたものは?

知れば知るほど、難しくなるんだなっていうことを学びました。知らないって、強気でいられるんです。でも知らないことを知ることによって謙虚になるし、慎重にもなる。そういうことを学びました。

― カレーに使うスパイス1つを取ってもそうですよね

そうなんです。口にこそしませんが「うちのカレーはこんなスパイスを使っているのよ!」って、少々タカビーな時期もありましたが、同業者さんへの配慮から気持ちにベールを被せるようになりました。

― コロンボさんはインドカレーでもネパールカレーでもなく、「創作カレー」のお店なんですよね

そうですね。特に開店15周年を記念して作った「粟お鶏(あわおどり)カレー」なんて正にね。高円寺の名物は阿波おどりなので、この街への感謝を還元したくてこのメニューを作りました。「粟(あわ)」が入っている十五穀米と、二種類の「鶏」肉のカレーを、そして踊り子さんの編み笠をモチーフにしたアーモンド型のお皿に乗せました。値段は910円で、そのうちの10円を毎年高円寺阿波おどり振興協会に寄付しています。

― 地域の人に来てもらうだけではなく、地域に還元もするということですか

そうですね。やっぱり全然知らない高円寺の街にこうしてお店を出させていただいたので。名物の阿波踊りとも、こうして関われて本当によかったなと思います。

なんでカレー屋さんにしたかと言うと、やっぱりカレーが好きだったから

― 20年間の中でターニングポイントとなった出来事はありますか?

開店当時はマサラというスパイスは使っていなかったんです。でも5年目にインドに行ったのが大きなきっかけとなりましたね。仕事でインドに通っているお客様に「カレー屋さんをしていればインドやパキスタンなどいろんな国の人が来るし、機会を作って絶対インドに行った方がいいですよ」と言われ続けて。次第にその気になり、やっと5年目にインドに行ってマサラというスパイスに出会ったんです。

マサラには大きく分けて4つの種類があるんです。ミートマサラ、チキンマサラ、野菜マサラ、シーフードマサラ。コロンボはこれを全部使い分けているんです。たとえばハンバーグカレーはミートマサラ、チキンカレーはチキンマサラという具合に、全てが別々の味なんです。

だからこんなこともありました。カップルで来たお客様が、お互いのカレーを食べ比べて「なんだか味が違うね」ってお話しをされるんですよ。多くのカレー屋さんは寸胴鍋でカレーを作ったら、どの素材にも同じカレーをかけるだけなので、どうしても味が均一になるんです。でもコロンボは素材に合わせてマサラを変えているので、味が違って当然なんです。

私にインドへ行くように勧めて下さったお客様が、インドで購入したマサラを今でも送って下さるんです。もう15年間になりますかね〜。そういったお客様との繋がりがあって今のカレーを提供出来ているので、今の環境に感謝しています。

― この20年で変わったことは?

メニューの数ですね。最初は定番の野菜カレーやポークカレー、カツカレーとか……いわゆる一般的なメニューでした。でもそれでは満足出来なくなり、コロンボでしか食べられないカレーを作りたいと思うようになりました。オープン当時の無難な路線から私の色を出すようになってきて。で、また、新メニューを考えるのが好きなんですよ!今も来年のお祭りに向けての新メニューを考えている最中なんです。コロンボ満ハタチのカレー。さっきも八百屋さんに行って食材を吟味して、メニューを考えていたんです。ああでもないこうでもないって想いを巡らせるのが好きなんですよね。

なんでカレー屋さんにしたかと言うと、やっぱりそもそもカレーが好きだったから。スパイスって夢があるんです。種類もいっぱいだし、洋服のコーディネートと一緒で、特質を熟知してブレンドすればオリジナルの「個」が生まれる。決まりきっていないから好きなんです。

月並みな言葉ですが、自分を信じるってすごく大事

― これからはどんなお店にして行きたいですか?

これまで通り、お腹だけではなく気持ちも満たされるようなお店でありたいです。そして「洋」から「和」への雰囲気も醸し出して行けたらな、なんて考えています。カレーうどんも始めましたし、カレー丼やカレーのおにぎりなどのメニューもワクワクしながら考え中です!

― 最後に新成人へメッセージをお願いします

「自分を信じて」とにかく前向きに頑張ってほしいですね。月並みな言葉ですが、自分を信じるってすごく大事。そして、自分と向き合うことも大事だと思います。人間ですから時には逸脱することもあるけれど、軌道修正をして、真っすぐに生きて行けたらいいですよね。

お店情報

カレーハウスコロンボ

1996年2月23日創業。インドやオーストラリア、スペインなどの異国異文化を取り入れた既成にとらわれない「創作カレー」を展開中。2004年には杉並区商店コンクールの飲食店部門で優良賞を受賞。2006年には杉並区「ヘルシーメニュー推奨店」に認定されている。

住所 東京都杉並区高円寺北2-41-15
電話番号 03-3338-1122
営業時間 AM11:30〜PM11:30
毎週木曜定休日(月末の木曜日は営業)

[ライター、カメラマン/小岩井ハナ+酒井栄太(Concent)]

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